第2部 削る · 第3回 / 全12回 · 10分くらい
期限を先に決めて、範囲のほうを削る
「できたら出す」と考えている限り、出す日は来ません。作っているあいだに、いくらでも足したいことが出てくるからです。この回では、Basecamp 社の開発の進め方「Shape Up」の考え方を借りて、期限を固定し、範囲を削る進め方を身につけます。
履修 0 / 12 回
この回を読み終えると、できるようになること
- 「見積もり」と「かけてよい時間を先に決める」の違いを説明できる
- 期限を固定したまま、範囲を削る判断ができる
- 作りかけ1つに、かけてよい時間と、その時間で出す範囲を決められる
専門用語は、初めて出たところで括弧に短い説明を付けています。説明が長くなるものには ※番号を付け、ページの終わりの用語メモにまとめました。
1見積もりは、終わりの日を先に延ばす
ふつうは「作るものを決めて、何日かかるかを見積もる」という順番で考えます。この順番だと、作るものが増えるたびに見積もりが延び、出す日は後ろにずれていきます。作っている途中で「これも要る」と気づくのはよくあることなので、出す日は来ないままになりがちです。
Basecamp 社の本『Shape Up』は、この順番を逆にすることを勧めています。本の言葉では、「見積もりは設計から始まって数字で終わる。かけてよい時間(appetite※1)は数字から始まって設計で終わる」。先に「この作業には6週間まで」と時間を決め、その時間で作れる形に設計を合わせる、という考え方です。
2時間を固定して、範囲を変える
同じ本は、この原則を「時間を固定し、範囲を変える(fixed time, variable scope)」と呼び、出すことに成功するための鍵だとしています。例として、本そのものを挙げています。本はいくらでも書き足せるので、時間を決めないと出せない、と。
個人開発に当てはめると、「Scribe を2週間で段3まで出す」と先に決め、2週間で作れない機能は、今回は外す、ということです。外した機能は捨てるのではなく、出したあとの候補の一覧に移します。
3削るときの順番
期限が近づいて間に合わないとわかったら、次の順で削ります。
- 最初の1人が使わない機能(第2回で決めた1人の使い方に入っていないもの)
- 手で代わりにできること(設定画面の代わりに設定ファイルを直接書く、自動化の代わりに手順書)
- 見た目の仕上げ(動きと読みやすさに関わらないもの)
削ってはいけないのは、データを失わないことと、最初の1人がいちばんしたいことの2つです。この2つが守られていれば、ほかは後から足せます。
4期限は短く、区切りは見える形で
期限は、長くても数週間にします。数か月の期限は、ないのと同じになりがちです。途中で状況が変わり、何をやっていたのかがぼやけるからです。
期限を決めたら、カレンダーに書き、終わりの日に「出したか、出していないか」を記録します。出していなかったら、理由を1行書きます。範囲が大きすぎたのか、途中で別の作りかけに移ったのか。この記録が、次の期限を決めるときの材料になります。
5期限を守るために、AIに範囲を削らせる
AIは、足すのが得意です。頼めば機能をいくらでも提案してくれます。逆に、削る判断を手伝ってもらうこともできます。
「残り10日で段3まで出したい。今の作業の一覧から、外しても最初の1人が困らないものを選んで」と頼むと、自分では捨てにくかった機能を、理由をつけて挙げてくれます。決めるのは自分ですが、削る候補を出してもらうだけでも、判断がかなり楽になります。
誤解よくある思い違い
期限を決めると、質が下がる
期限で削るのは範囲であって、質ではありません。データを失わないことと、いちばんしたいことは削らず、それ以外を次に回します。
見積もりを正確にすれば、出す日を守れる
作っている途中で要るものが増えるので、見積もりは延び続けます。先に時間を決め、その時間に設計を合わせるほうが、出す日を守れます。
演習手を動かして確かめる
演習1
期限まで残り1週間で、作業が10個残っています。1週間でできるのは4個です。次の作業から、残す4個を選んでください。
- データの書き出し機能
- ダークモード
- 保存したデータが壊れていたときの復旧
- 設定画面
- メインの編集機能の不具合修正
- アイコンの作り直し
- 使い方の説明(README)
- キーボードの近道
- 自動更新の仕組み
- 初回起動時の案内
答えを見る
例:3(復旧)・5(不具合修正)・7(説明)・1(書き出し)。
3と1は「データを失わない」ためのもので、削れません(書き出せれば、ほかのアプリに移せます)。5は「いちばんしたいこと」です。7が無いと、最初の1人が使い始められません。ほかは、出したあとでも足せます。自動更新は、段3の最初の版ではまだ要りません(次の版は手で配れます)。
頼み方そのまま使える頼み方の例
次の作りかけを、期限内に出すための範囲を一緒に決めてください。
- 期限:(◯月◯日まで、かけてよい時間は◯時間)
- 出す段と最初の1人:(第2回で決めたもの)
- 残っている作業:(一覧を貼る)
作業を「残す・次に回す」に分け、次に回す理由を1行ずつ書いてください。ただし、データを失わないための作業と、最初の1人がいちばんしたいことは残してください。 用語メモ本文の ※番号の説明
- ※1appetite(かけてよい時間) 『Shape Up』で使われる言葉。「この作業にはここまでの時間をかけてよい」と、作る前に決める時間の上限。見積もり(作るものを決めてから、かかる時間を予想する)とは、決める順番が逆になる。 本文へ戻る ↩
出典確かめた資料(2026年10月時点)
- Basecamp『Shape Up』3章 Set Boundaries appetite と見積もりの違い、「時間を固定し、範囲を変える」。